日本における法律上の「動物」の解釈についてー「物」から「命」へー

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動物が「物」の地位にあることが動物を救えない元凶である

ーGary L. Francioneー

現状

現在の、日本の法律において動物は基本的に「物」として扱われます。

民法は、その85条において「この法律において、『物』とは、有体物をいう」と規定し、動物は権利義務の帰属主体となることはできません。

つまり、たとえば、長年ともに暮らしたペットに遺産を残したいと思っても、ペット自身に財産を承継させることはできません。

また、刑法上は動物についての明文規定は存在せず、解釈上も判例においても「物」として扱われるのが一般的です。

たとえば、誰かが動物を虐待し負傷させたり殺したりしても、傷害罪や殺人罪は成立せず、動物の所有者に対する器物損壊罪が成立するのみです。

一方で、「動物の愛護及び管理に関する法律」(以下「動物愛護管理法」)においては,「牛,馬,豚,めん羊,山羊,犬,猫,いえうさぎ,鶏,いえばと及びあひる」と,「人が占有している動物で哺乳類,鳥類又は爬虫類に属するもの」については,「愛護動物」として,「物」とは異なる扱いをすることが規定されています。

動物愛護管理法によれば、「愛護動物」をみだりに殺し,又は傷つけた者に対しては,2年以下の懲役又は200万円以下の罰金が成立する(同法44条4項)など,刑法上の器物損壊罪(3年以下の懲役又は30万円以下の罰金もしくは科料)よりも重い犯罪が成立します。

その他,動物愛護管理法が、「地方公共団体は,動物の健康及び安全を保持するとともに‥動物の飼養及び保管について動物の所有者又は占有者に対する指導をする‥(9条)」と規定することから、過料等の制裁つき条例が定められている地方公共団体も存在します。

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法の分類

ここでまずは、理解を深めるために、法の分類について基本的なところを概説します。

一般に法はそれぞれ以下のように分類されます。

  1. 自然法 …自然・人間の本性から成立する実定法に先立ち普遍的に存在する法
  2. 実定法 …社会慣習や立法機能によりつくりだされた法
  1. 不文法 …明文化されていないが慣習や伝統などにより効力を持つ法
  2. 成文法 …憲法、条約、法律、命令、条例など明文化された法
  1. 公法 …国、地方公共団体の組織、活動、国民・住民との関係を規律する法
  2. 私法 …私人間、団体間の生活関係を規律する法
  1. 実体法 …権利義務(発生、変更、消滅等)の内容を定める法
  2. 手続法 …実体法を具体的に実現する手続を定めた法
  1. 一般法 …人・場所・事柄について法令の効力を一般的に及ぼす法
  2. 特別法 …特定の人・特定の場所・特定の事柄に限って適用される法 ※「特別法は一般法に優先するという原則があります。

➡憲法は、「実定法」→「成文法」→「国内法」の「公法」です。

➡刑法は、「実定法」→「成文法」→「国内法」→「公法」の「実態法」です。

※動物愛護管理法は刑法の特別法です。

➡民法は、「実定法」→「成文法」→「国内法」→「私法」の「実態法」です。

➡地方自治法や条例は、「実定法」→「成文法」の「国内法」です。

以上を、頭の片隅において読みすすめると理解が深まると思います。

憲法における動物の位置付け

日本国憲法では、動物に関する明文規定は存在しません。

動物の法的地位が問題となるのは、動物が人権の享有主体になるかどうかだけです。

憲法は、国民の権利・自由を国家権力から守るために存在する法です。刑法などのように、私たち国民が守るべきもの、違反すると処罰されることもある法律とは違い、国(権力)が行ってはいけないこと(または行うべきこと)について定めた最高法規です。

憲法11条が、「国民は、すべての基本的人権の享有を妨げられない」と規定するところの「国民」とは「人」に限るとは書いていないことから、「人」以外の動物が人権をもつことがあり得るという解釈もありますが(伊勢田哲司・なつたか『マンガで学ぶ動物倫理』2015年88頁)、現実的には動物に人権は認められていません。

一方、ドイツ憲法20a条は、「国は、来るべき世代に対する責任を果たすためにも…動物を保護する」とし、明確に動物保護を憲法上の要請としています。

浅川千尋「動物の権利論の覚書」天理大学人権問題研究室紀要20号2017年39頁は、

憲法第13条の「幸福追求権」は、共生物である動物が保護されることによって人間は幸福を追求できるということになるであろう。また、憲法第25条(とくに第2項=国の公衆衛生の向上・促進義務)から、国の「動物保護義務」が引き出されると考えられる。さらに、憲法第97条「現在及び将来の国民に対し」の「将来」という文言がドイツ憲法第20a条の「来るべき世代」と共通していることに着目して、ここからも「動物保護」が導き出せないか検討する価値はあると思われる。

と述べ憲法における動物保護の可能性を主張しています。

刑法における動物の位置付け

日本の刑法は、他人の所有する「物」である動物を殺傷した場合、器物損壊罪(261条)が適用され、殺人および傷害罪・傷害致死罪等は適用されません。

井田良・佐藤拓磨『刑法各論〔第3版〕』2017年9頁は、261条の「他人の物を損壊し、又は傷害した者」との規定における「傷害」という文言は「物」には当てはまらず、したがって動物を想定したものであるとして、261条の後段部分を「動物傷害罪」と呼び、刑法は動物を単なる「物」とは別扱いすると主張します。

一方、特別刑法の「動物愛護管理法」は、2012年の改正に伴い、その最終的な目的を「人と動物の共生する社会の実現」としたことから、以前は人間のための法律であったが、「人間と動物のための法律になった」(東京弁護士会公害環境特別委員会編『動物愛護法入門』2016年11頁4)といわれます。

民法における動物の地位づけ

日本の民法において動物は有体物であり、動産とされ、権利の客体としての「物」にすぎません。

しかし、最近の判例(福岡地判平成30年6月29日)では、不法行為によって飼犬が死んだケースについて飼い主の慰謝料が認められました。

民事裁判において動物は、「財産的価値があるだけでなく、それと同時に、あるいはそれ以上に、人格的価値が付与されてきている」との解釈もなされるようになっています(吉田克己・片山直也編著『財の多様化と民法学』2014年14頁)。

まとめ

Dr.フランシオン(Gary L. Francione)が、「動物が『物』の地位にあることが動物を救えない元凶である」(ゲイリー・フランシオン著 井上太一訳『動物の権利入門』2018年177~179頁)と述べるように、感情ある動物を「物」と解釈するこの国の法制度は不自然極まりなく、教育の現場等で、いくら「命を大切に」などと述べても、根底にある矛盾を払拭しない限り説得力に欠けるものでしょう。

愛護動物に限らず、人間の目の届かないところで苦しんでいる畜産動物や実験動物なども含め、全ての動物と人が共生する社会の早急な実現が切に望まれます。

<参考文献>
井田良・佐藤拓磨『刑法各論 第3版』弘文堂(2017年)
ゲイリー・フランシオン著 井上太一訳『動物の権利入門』(緑風出版)2018年
浅川千尋「動物の権利論の覚書」天理大学人権問題研究室紀要20号(2017年)
東京弁護士会公害環境特別委員会編『動物愛護法入門―人と動物の共生する社会の実現へ 』(2016年)
吉田克己・片山直也編著『財の多様化と民法学』商事法務(2014年)
山﨑将文「動物の法的地位―憲法の観点からの考察を含めて―」 九州法学会会報(2019 年)
嶋津 格「動物保護の法理を考える」法律時報1096(2016年)
新田 一郎「動物・生類・裁判・法―日本法制史からの俯瞰」同上
高橋 満彦「野生動物法の多様な諸相について―社会との複雑な関係性の反映」同上
浅川 千尋「ドイツ憲法から見た動物保護と法―動物実験規制と人間中心主義克服を中心に」同上
青木 人志「動物保護法の日英比較――とくに動物虐待の訴追をめぐって」同上