米国の議員66人は、コロナウイルスのような将来のパンデミックを防ぐために、生きた動物を販売するウェットマーケットを世界的に禁止するよう、World Health Organization (WHO)、World Organisation for Animal Health (OIE)、Food and Agriculture Organization of the United Nations (FAO)に書簡を送り呼びかけています。
ウエットマーケット
ウェット・マーケットは、野菜や果物、肉類などの生鮮食品を取り扱っている市場のことをいい、生鮮食品を取り扱う際に床が濡れることなどからこのように呼ばれるようになりました。
ウエットマーケットと呼ばれる市場は世界中にあり、日本の築地市場もそのひとつです。
ウエットマーケットの中には、生きている野生動物や家畜などを扱うところがあり、コロナウィルスのような未知のウィルスの発生源であることがわかってきています。
専門家も、ウィルスなどの病原体の主要な感染源として、世界各国の野生動物市場に注目しています。
ウイルスのパンデミックは何百万人もの命を脅かし続け、医療システムを限界まで追い詰め、世界中の経済を混乱させています。
野生動物と公衆衛生を守るために、国際社会の一員として私たち全員が行動を起こすことが不可欠です。
商品として陳列される野生動物
人獣共通感染症を研究している科学者たちは、生きている動物を扱うウエットマーケットでは、買い物客や売り子、生きている動物と死んだ動物が密接した状態でいることを懸念しています。
ウエットマーケットでは、様々な場所で生息していた野生生物が、衛生検査や健康検査のプロセスを経ることなく集められ、窮屈なゲージに閉じ込められています。
ゲージは何段にも積み上げて店頭に置かれていることが多いため、排泄物や、血液、唾液などが、下のゲージの動物にかかります。
また、顧客の目の前で屠殺することもあり、血液や体液が飛び散り、周囲の人にかかったり、吸い込まれたりする懸念もあります。
市場の野生動物たちは窮屈なゲージに詰め込まれたまま、輸送されたり、商品として長いあいだ陳列されることで甚大なストレスを受けています。
そうしたストレスにさらされ続け免疫力が低下した野生動物は、本来、共生していたウイルスや菌との関係が崩れ、そうした状態に置かれた動物の屠殺を繰り返し、それを食べることで未知のウイルスが発生する可能性は高まります。
このまま野生動物を利用し続ければ、エボラ、サル痘、ラッサ熱、SARSやCOVID-19で見られるように、再び、未知の伝染性の高い致命的な病気のアウトブレイクを引き起こすことは避けられないでしょう。
人獣共通感染症
科学者の推定では、新しく出現した感染症の約60~75%は人獣共通感染症であるとされています。
そのうち約72%が野生生物に由来していることもわかっています。
科学者はまた、将来出現するすべての感染症は人獣共通感染症だろうと述べています。
人獣共通感染症の歴史は長く、例えば、過去45年間で少なくとも5つのパンデミックは人間がコウモリを食べたことで発生し、エボラは、13,500人の死者を出しました。
インフルエンザ
全世界で毎年300万人から500万人が重症化し、29万人から65万人の死者を出しているインフルエンザは、主に動物に感染するインフルエンザウイルス感染症ですが、ウイルスの変異によって動物→ヒト、ヒト→ヒトへ感染するようになったものです。
ニパウイルス
1997年から1999年にかけてマレーシアで流行したニパウイルスは、自然宿主はコウモリであると推測されており、コウモリから豚を介してヒトに感染し、発病者の致死率は50%に達しました。
最初に、オオコウモリから養豚場で飼育されている豚が感染し、豚の間で呼吸器症状を呈する感染症が流行しました。その感染した豚からヒトへ、気道分泌物などの体液を介してウイルスが感染し、ヒトの間で脳炎が流行します。さらに感染した豚が輸出され,それが感染源となり輸出先の屠畜場労働者にも感染が広がりました。
ヘンドラウイルス
1994年オーストラリアブリスベン郊外の競走馬の厩舎で発生したヘンドラウイルスは、オオコウモリから馬に感染し、人が馬と接触することで広まりました。
SARS
2003年から香港を中心に感染が広まったSARSは、コウモリ由来の可能性が高いとされ、コウモリから直接人間に感染したか、市場で販売されていた食用コウモリをはじめとした食用動物を介して人間に広まったと推測されています。
また、ジャコウネコ科のパームシベットからヒトへ、種の壁を越えた異種伝播をするとされ、広東省だけで1万頭以上のパームシベットが駆除されました。
MERS
2012年にサウジアラビアで初めて患者が報告されたMERSは、その後も、サウジアラビア、ヨルダン、アラブ首長国連邦、カタールを含む中東諸国や、フランス、ドイツ、イタリア、英国などの欧州、チュニジアで断続的に発生しています。
日本の厚生労働省は、ヒトコブラクダが保有宿主であり、ラクダとの接触や、ラクダの未加熱肉や未殺菌乳の摂取が感染リスクになると発表しています。
エボラ出血熱
1976年にスーダン南西部で発生したエボラ出血熱は、食用コウモリからの感染が研究論文で発表されました。また、感染したカニクイザルと豚が見つかっており、米国では、食用サルの商業輸入に携わった人の発生が顕在化しています。
HIV
HIVは、1921年頃、中部アフリカに生息するチンパンジーを人間が食用とし、銃器類を用いて捕獲、解体を行う際、HIVに感染した猿の血液を含めた体液に触れることで種を超えた感染が始まったとされます。
COVID-19
COVID-19パンデミックも、コウモリが宿主となり、そこから中間宿主となった動物を介して人間に感染したとみられています。
また、新型コロナウイルスは、人→動物にも感染することがわかっています。
パンデミックを繰り返さないために
同じようなパンデミックを繰り返さないためには、野生生物を食用としたり、娯楽のための取引禁止が必要なことは明らかです。
すべての国で生きた野生動物を扱う市場を恒久的に閉鎖し、生きた野生動物の国際取引を禁止することが必要です。
今すぐに、動物産業・消費に依存しない社会へとシフトしなければ、人類のみならず地球の存続は難しいでしょう。