放牧は牛と環境に優しい?実は環境負荷が増えるという研究報告

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ハーバード動物法および公共政策プログラムのマシュー・ハイエク氏と、ボストン大学地球環境学部のレイチェル・ギャレット氏が主導し、雑誌「Environmental Research Letters」に掲載されたこの研究論文は、「肉の消費量を減らすことによってのみ、畜産システムの環境への影響を減らすことができる」と結論づけました。

“Nationwide shift to grass-fed beef requires larger cattle population”

国連食糧農業機関 United Nation’s Food and Agriculture Organization (FAO)によると、畜産により排出される温室効果ガスは、全ての排出量の14.5%を占めています。

さらに、そのうち65%は、肉および乳製品をとるために飼育される牛によって排出されます。

科学者などの専門家が、肉の消費を減らすことを提唱する理由は、肉食がもたらす地球環境への悪影響にあります。

そのような中で、牛舎の中で穀物飼料等により脂肪を蓄えさせ肥育する「グレインフェッド」と異なり、放牧して牧草だけで育てる「グラスフェッド」は、環境やアニマルウエルフェアの観点からも問題がないと主張する人がいます。

しかし、本当にそうなのでしょうか?

また、持続可能な畜産というものは存在するのでしょうか?

今回は、前掲の研究報告をもとに「グラスフェッド(放牧飼育)」が持続可能なのか、環境とアニマルウエルフェアの観点から検証します。

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グラスフェッドとは?

2016年1月12日、米国農務省(USDA) のAgricultural Marketing Service(AMS)支部は、「グラスフェッド(牧草飼育)」の定義を廃止すると発表しました。

“Understanding AMS’ Withdrawal of Two Voluntary Marketing Claim Standards”

製品のパッケージに表示された「放牧飼育」という表示は、それが正しいかどうかを判断することができず、法的な定義も存在しない、という理由です。

American Grassfed Association(アメリカグラスフェッド協会)によると、グラスフェッドは「まぐさ」や「かいば」など100%”forage diet””を用い、閉じ込められた状態で飼育されず、ホルモン剤や抗生物質を使用されていないことを意味します。

また、牛たちはファミリーファームで生まれ育ちます。

放牧飼育の肉用牛は、通常、屠殺できる重量まで体重を増加させるため、従来の牛よりも最大1年間長く生かされます。

しかし、本来、牛の寿命は20年ほどですが、肉用牛は「穀物飼育」「牧草飼育」に関わりなく、もれなく寿命を全うすることなく屠殺されます。

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放牧飼育は持続可能なのか

放牧飼育というと、緑豊かな草原でゆったりと草を食む光景を想像し、多くの人は、放牧飼育の牛がより良い生活を送っているとイメージしていると思います。

しかし、牧草飼育の牛も、工場畜産で飼育された牛と同じく寿命を全うせずに屠殺されることにかわりはありません。

また、牧草飼育は持続可能かというと、それも事実ではないようです。

雑誌「Environmental Research Letters」に掲載された研究報告はそれを裏付けています。

“Nationwide shift to grass-fed beef requires larger cattle population”

この研究報告は、米国では、環境的に持続可能であるという認識から、「穀物仕上げ肥育場システムではなく、牧草ベースのシステムのみで飼育された牛からより多くの牛肉を生産することに関心が高まっている」と説明したうえで次のように 述べています。

現在と同じ量の牛肉をグラスフェッドで生産するためには、牛の数を30%増やす必要があります。

また、今ある牧草地は、現在の牛肉供給量(27百万頭)の27%しかサポートできず、以前の推定よりも30%少ないこともわかりました。

放牧による牧草飼料で育てた牛肉のみで需要を賄うには、牛肉の全体的な消費が削減された場合にのみ維持できます。

また、牛肉の消費が削減されず、代わりに、牧草飼育の牛肉の輸入を増やした場合、輸送等でメタン排出量の増加が加速することになり、より高い環境コストを生み出します。

論文では、最終的に、「肉の消費量を減らすことによってのみ、畜産システムの環境への影響を減らすことができる」と結論づけています。