TwitterなどSNS上のやりとりでは言い争いに発展する光景をしばしば目にします。
もちろん、リアルな社会でも論争に発展することは少なからずありますが、SNSとリアルな世界での論争を比較すると、いくつかの異なる注意すべき点が見えてきます。
今回は、この点を踏まえ、SNS上の論争の要因を分析し、かみ合わない議論を回避するポイントを考察してみました。
最も大きな原因は「前提条件」の相違
対話を行う「前提条件」には、その人の背景など「立場」に対する認識と、問題そのものに対する理解である「知識」が求められますが、特に問題となるのは「知識」の違いです。
これは、発話者よりも、受け手の知識が欠如している結果、話がかみ合わなくなるケースが多いように見受けられます。
たとえばこんな会話を想定してみました。

地球温暖化ってこれからどうなるのかな…グレタも言ってたしVeganになろうか迷ってるんだ。

えっ?必要ないんじゃない。

そうかなぁ。これからさらに進みそうな気がするんだけど…

たしかに一時は騒がれたけどね。

でもまだ地球温暖化は進むと思うしVeganになることで地球にも動物にもやさしくなれそう。

Veganがなんで地球にやさしいの?それに最近、ニュースでも全然聞かなくなったし。

・・・え?何を言ってるの?

地球温暖化でしょ

そう

地球の気温が上昇する地球温暖化でしょ?だからってなんでVeganになろうかなんて言うの?

ひょっとしてグレタ・トゥンベリ氏のスピーチ聞いてないの?

グレタ?グレタ・トゥンベリってVeganが地球温暖化解決の糸口になるとかって訴えていたの?

そうよ。「気候のための学校ストライキ」や「未来のための金曜日」で気候変動学校スト運動を先導したり、畜産が及ぼす温暖化の影響を訴えて国連でスピーチしたの知らなかったの?
二人の会話は、まったくちぐはぐでかみ合っていないうえに、Veganになろうかな、という論点の答えにたどり着くことができていませんね。
発話者は相手が、「グレタ・トゥンベリ氏が、畜産が地球温暖化問題に大きな影響を及ぼすというスピーチをしたことを知っている」前提で話を始めています。
現実世界でのビジネス交渉やミーティングの際は、テーマを共有し、予め「前提知識」を合わせておくことも出来ますが、SNSや雑談では予測できないケースが多いといえるでしょう。
言葉の理解
A.誰もが、誰かをねたんでいる。
B.誰もが、誰かからねたまれている。
この2つの文章が、同義かどうか、ツイッターで尋ねたら、回答を寄せた約7,000人のうち半数以上が「同義」だと答えたそうです。
一見するとこの二つはBがAの「受け身形」にも見えますがはたして本当にそうでしょうか。
正解は「同義ではない」です。
例えば、A、B、C、D、Eの5人が存在する世界で、
- AさんとEさんはBさんをねたんでいる。
- Cさんは、DさんとEさんをねたんでいる。
- BさんはCさんを、DさんはEさんをねたんでいる。
という状況で「誰もが、誰かからねたまれている」といえるのかのかといえばNOという答えが導かれます。
なぜならAさんは、誰からもねたまれていないから。
つまり、「誰もが、誰かをねたんでいる」と「誰もが、誰かからねたまれている」は同義でないのです。
ここでは
- AさんがBさんをねたんでいるがそれ以外の人は誰もねたんでいない
- BさんがAさんからねたまれているが、「誰もが、誰かをねたんでいる」状態ではない
ということになります。
このように、相手の言葉を正しく理解せず、事実が捻じ曲げられて自分に都合の良いように解釈した結果、話がかみ合わず、言い争いに発展するケースは少なからず存在すると思われます。
しかし、この違いが読み解けないのは当然で、日本のほとんどの義務教育では「誰もが、誰かをねたんでいる」と「誰もが、誰かからねたまれている」の違いを教えてくれません。
問題解決の方法
とはいえ、前提知識や読解力をすべての発言に求めることは現実的ではありません。
この問題を解決するためには以下の3つが効果的だと思います。
- 共通の問題意識を持つ人以外に対する、深い前提知識を要する発言は控える。
- 噛み合わないレスポンスはスルーする。
- 閲覧制限をする。
SNSでは、前提知識を共有しない人との交流も余儀なくされます。
それが面白いところでもありますが、デメリットともなります。
多少、話が噛み合わない人が登場してもナーバスにならず受け流すくらいの気持ちを持つことが楽しみながら続けるコツでしょう。
<参考文献>
三浦俊彦『論理学入門 推論のセンスとテクニックのために』NHKブックス(2003年)
飯田隆『言語哲学大全1 論理と言語』勁草書房(1987年)
Time Asia [US] December 23 – January 6 Person of the Year (単号)
新井紀子『AIに負けない子どもを育てる』東洋経済新報社(2019年)